多職種連携とは

多職種連携はなぜ必要なのか

老年看護学を専門とし、看護と社会福祉という二つの専門領域をバックグラウンドに持つ中で、約20年にわたり多職種連携の研究に取り組んできた立場からの解説です。

「多職種連携」という言葉を、あちこちで耳にするようになりました。

この意味を定義するのは意外と難しいのですが、おおよそ次のようなものです。
「質の高いケアを提供するために、異なった専門的背景をもつ専門職が、共有した目標に向けて共に働くこと」

……これだけ聞いても実感がともなわないですよね。
多職種連携の近年の動向を知ると、イメージがわいてくると思います。

「多職種連携」の近年の動向

WHO(世界保健機関)では、世界に先駆けて多職種連携の必要性を示し、1980~90年代にかけて、多職種連携や多職種連携教育に関する重要な報告書を提示しました。
しかし、多職種連携に関する日本の関心は低く、あまり注目されることはありませんでした。

一方でこの頃、アメリカやイギリスでは、人口の高齢化に伴うさまざまな健康・生活課題への対応と、保健医療・社会福祉の高騰への対応策として多職種連携が再注目され、政策あるいは研究として積極的に推進されていました。(両国での歴史的変遷については下記の文献1をご参照ください)

日本でも第二次世界大戦後、医師と看護職に加えて、リハビリテーション専門職などの新しい医療職や、医療ソーシャルワーカーなどの社会福祉職が台頭しましたが、医師以外の専門職が「医師と同等の立場で連携する」こと自体、なかなか受け入れられる状況ではありませんでした。

私が多職種連携を始めた当初も、医師だけでなく他の専門職においても連携の必要性への理解が乏しかったのです。
状況が劇的に変わってきたのは、つい最近のことと言ってよいでしょう。
その背景には、欧米先進諸国と同様に、高齢化の波による人口構造や健康問題の変化があります。

中でも超高齢社会に突入した日本では、要介護高齢者の介護課題、地域・在宅医療への取り組み、医療費削減といった課題が生じる中で、多職種連携は必要不可欠なものです
病院から地域・在宅への多職種による退院支援に診療報酬が加算されるようになり、多職種連携自体が財源化されたことは記憶に新しいところです。

WHOでは、このような世界的な動向をふまえて、2010年に“Framework for action on interprofessional education and collaborative practice:多職種連携教育と連携実践のための行動枠組み”(文献2)を発表し、世界的に多職種連携を推進することを推奨しています。

多職種連携については、これまで日本だけでなく国際的にさまざまな議論が行なわれてきました。しかし、専門職協働や協同、チーム医療、チームワーク、チームアプローチなど、様々な用語が十分に整理されないまま用いられている状況があります。

このような現状の中で、最近は多職種連携をInterprofessional Work=IPW、多職種連携教育はInterprofessional Education=IPEと呼ぶことが多くなっています。
日本の大学でも、多職種連携教育というよりもIPEの呼称が馴染んできおり、保健医療福祉系の大学を中心にIPEへの取り組みが進んでいます。

専門職だけに限らない

冒頭で多職種連携を「異なった専門的背景をもつ専門職が、共有した目標に向けて共に働くこと」と定義しました。
実は連携は「専門職」には限らない、というのが最近の流れです。

もともとは保健医療の専門職による連携に始まりましたが、WHOの報告書(2010)では、事務管理者、その他の専門職、ボランティアなどの支援者、そして地域コミュニティのリーダーも、連携のメンバーです。

日本の高齢者ケアの現場で考えるなら、介護支援専門員(ケアマネジャー)、医師、看護職、リハビリテーション専門職、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターや社会福祉機関の職員、介護保険施設の職員に加えて、民生委員、NPO法人の職員、ボランティア団体のメンバー、自治会などの地域支援者もあげられるでしょう。

地域包括ケア推進の鍵となる多職種連携

日本の少子高齢化のスピードは止まらず、経済状況の停滞とも相まって、高齢者へのケアは従来の介護保険制度のみでは対応できなくなってきました。
新たな仕組みとして2012年の介護保険法改正や2014年の医療介護総合確保推進法制定によって、地域包括ケア(住まい・医療・介護・予防・生活支援の一体的な提供)が推進されることになりました。

これら一連の改革の中で常に求められてきたのは、実際のサービス提供における多職種連携です。
介護支援専門員の実務研修実施要綱では、その冒頭で「地域包括ケアシステムの中で医療との連携をはじめとする多職種協働を実践できる介護支援専門員の養成を図る」ことが目的と定めており、多職種連携がまさに中心のスキルと位置付けられていることがわかります。

また、主任介護支援専門員の研修では、「医療との連携及び多職種協働の実現」において、講義と演習が課されました。
さらに「医療との連携事例」、「社会資源の活用に向けた関係機関との連携事例」研修が新設され、介護支援専門員の専門性という土台の上に、多職種連携スキルの教育・トレーニングが必要となっています。

このように、地域包括ケアを推進していくためには、高齢者の健康・生活を支えるための医療と介護の連携が欠かせず、そこでは介護支援専門員(ケアマネジャー)が中心となり、その他の職種も一丸となって多職種連携を行なっていくことが求められているのです。

このたび介護支援専門員の研修内容に多職種連携の講義・演習が明確に位置づけられたことは非常に画期的であり、介護支援専門員の多職種連携のスキルアップが、利用者のニーズに応じた地域包括ケア推進の鍵になることは間違いないでしょう。

文献
1.松岡千代(2013)多職種連携の新時代に向けて:実践・研究・教育の課題と展望、リハビリテーション連携科学、14(2)、181-194.
2.WHO(2010) Framework for action on interprofessional education and collaborative practice. http://www.who.int/hrh/resources/framework_action/en/

さて、ここまでは「多職種連携」というものについて解説してきました。

次の項目でいよいよ、多職種連携にはどのようなスキルが必要なのか、そのためにどんな教育やトレーニングが可能なのかを、私自身の実感とともに述べたいと思います。

>>気質の違いを活かす、多職種連携教育(IPE)

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