多職種連携教育(IPE)とは
松岡千代です。
皆さんもご存じのように「言うは易く行なうは難し」なのが多職種連携。
なぜ難しいのか?
うまくいくための要件や、必要なスキル(技能)は何か?
スキルトレーニングや学生への多職種連携教育(Interprofessional Education=IPE)の方法とは?
……かつて博士論文を書くにあたってあれこれ模索する中で、ハワード・カツヨ博士と出会い、TRUE COLORS(TC)を知りました。このプログラムは多職種連携のスキルトレーニングに使える! まさにこれだ! と確信したのです。
TCプログラムの話に入る前に、多職種の連携・協調に必要なスキルについて少し説明しておきましょう。
多職種連携に求められるコンピテンシー
多職種連携に必要なコンピテンシー(能力)は、次のような領域があるとされています(文献3)。
他のコンピテンシーを支持する基盤となる2つのコンピテンシー
- クライエント・家族・コミュニティを中心としたケア
- 職種間のコミュニケーション
多職種連携を目標として相互に統合される4つのコンピテンシー
- 各職種の役割の明確化
- チーム機能の理解
- 相互に連携したリーダーシップ
- 職種間に生じた葛藤解決
つまり、多職種連携のためには、専門職としての能力(それぞれの専門性)以外に、基本的なコミュニケーション能力と、専門性や個性が異なる相手に有効にアプローチする能力、葛藤を解決する能力、さらにケース検討会議などをファシリテートする能力や連携のリーダーシップをとる能力も必要とされるのです。
このように多層的に構成された多職種連携のスキルは、自然に身につくものではなく、学習とトレーニングが必要であることが世界的に認められています。
2つの葛藤が生じる
多職種連携が難しいのは、そこにしばしば二重のすれ違い(葛藤)が立ちはだかるからです。一つは職種の違い、もう一つが個人の気質による違いです。
専門職間の葛藤
職種間の地位や力の格差は、多職種連携の障壁となります。さらに知識や価値観など専門職文化の差異も、葛藤を生じる要因となります。加えて、多職種連携の方法や葛藤解決についての知識やスキルの不足も課題です。
個性の違い
職種や立場とは別に、一人ひとりの気質の違いがあります。職種の違いをどう理解し、どのように葛藤を解決するのかという方法にも、個性の違いが現われます。
多職種連携の葛藤は、しばしば職種間の葛藤として取り上げられるのですが、実は職種の違い以前に個性の違いに対応できず、多職種連携が上手くいかないことが多いのではないでしょうか。
人は一人ひとり異なっていて、個性をもっている……ということは誰もが「頭」で知っています。けれども実際のコミュニケーションで、それがどれぐらい意識されているでしょうか。
人はどうしても、自分の範疇の中で物事を解釈して行動し、他の人も同じように考え行動するものと考えがちなのです。
ところが連携においては、自他の違いを受け入れ、異なる価値観を認め合いながら合意を形成していくコミュニケーションが求められます。
どうしたら、そのトレーニングができるのか……
私が出会ったのが「自分を知る」「他人を知る」「違いを受け入れる」を三本柱とするTCプログラムだったのです。
TRUE COLORSと多職種連携
TCプログラムではまず、4つの気質が自分の中でどんなふうに組み合わさっているかを見ていきます(この気質を誰でもわかる共通言語とするため、4色のカラーに象徴させています)。
第一カラーと第二カラーは、自己の言動に強く影響を与え、そのカラーの特徴は個人の強みとなります。
一方で、第四カラーは弱みやストレス源になることが多く、またそのカラーをもつ他者とは、対立関係や葛藤関係に陥りやすくなります。
しかし、自己の第四カラーを知って、弱みを認めることは、そのカラーを強く持っている他者の価値や強みを認めることにつながります。つまり多職種連携の目的のために、お互いに力を活かしあえるようになるのです。
多職種連携に求められるスキルの核心が、座学ではなく体験型のプログラムによって数時間で実感でき、かつお互いを理解するための「共通言語」が得られることが、TCの利点です。
もう一度、多職種連携に欠かせない能力を階層的にまとめてみると、以下のようになります(文献4)。
- 第一層 基本的な対人関係・援助能力
- 第二層 専門職としての専門性・能力
- 第三層 多職種連携の能力
TCプログラムは、第一層だけでなく第三層のスキルトレーニングにも有効です。
これまで私は、各種の学術集会や研究会、専門職職能団体での研修、学生への多職種連携教育等において、TCを積極的に紹介し実施しています。
違いを活かす連携教育のために
日本人は対立や葛藤が苦手です。
日本の文化は、違いを個性として認めることが不得意です。
違いが表面化しそうになると、言いたいことを抑えたり、ごまかしたり……。
あるいは空気の読めない人は仲間はずれにされたり、声の大きい人・社会的に力をもっている人の意見が勝ったり……。
こうした個性の違いや専門職の違いによって多職種連携が上手くいかなくなると、果たして誰が不利益を被るのでしょうか。
利用者とその家族です。
個人の違い、専門職の違いを活かして相互に連携し、利用者とその家族の利益が守られること――これが私の変わらないテーマであり、そのためにぜひTCプログラムを広めたいと思っています。
多職種連携に悩みを持つ皆さん、そして多職種連携教育(IPE)や現任者の研修企画に取り組む方々、TCプログラムを試してみませんか?
文献
3.Canadian Interprofessional Health Collaborative (CIHC)(2010) A National Interprofessional Competency. http://www.cihc.ca/resources/publications
4.松岡千代(2011) チームアプローチに求められるコミュニケーションスキル, 認知症ケア事例ジャーナル, 3(4), 401-408.
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