「グループ・ダイナミクス」を使う
高橋聡美(防衛医科大学校看護学科 精神看護学 教授)
私は仕事柄、いろんなグループのファシリテーターをする機会がありますし、「ファシリテーター養成講座」の講師を務めたりもしています。ファシリテーションについては、知識も経験もある方だと自覚していました。
ところが!
ハワード・カツヨ先生の「グループ・ファシリテーションの理論とスキル」のセミナーを受講して、経験におごることなく研修を受ける大切さを痛感しました。
批判的な意見は何気なくスルー?
カツヨ先生のセミナーは、グループをファシリテートする基本となる3つの要素【Be→Set→Do】をロールプレイなどで体験するものです。
一つのグループがみんなの前でロールプレイをするたび、カツヨ先生は参加者全体に向けてフィードバックを促します。
「みなさん今、何を見た?」と。
ファシリテーターには「あなたは今、何をしようとしたのかな?」と質問します。
私がファシリテーター役をした時、何度も「みんなが納得いくように」「みんなでこれからも仲良くすごせるように」というような言葉を使っていることを他の方から指摘されました。
それで気づかされたことがあります。
私はグループにいる個々人の想いや個性よりも、「この場で誰かが嫌な思いをしない」こと、「この会の後、いざこざにならない」ことばかりを大事にしてきたのではないかと。
これまで、グループの中で話が長い人がいたり、批判的な発言をしてその場の雰囲気を悪くしてしまう人がいると、とにかく、なだめることばかりしてきました。
機嫌の悪い人の機嫌を直すことに躍起になったり、批判的な意見も何気なくスルーするような感じで、やってきました。
「○○さんは、そう思っているんですね。みなさんはどう思いますか?」と一人の考えを『場に返す』勇気がありませんでした。
個性を大事にしたら、グループはまとまらない?
ワークショップで学んだのは、『一人一人の個性を大事にしながら、グループ・ダイナミクスを引き出していく』ということです。
一人一人の個性を大事にすると、そのグループはまとまりがつかなくなるのでは?
それぞれ好きなことを勝手に言い出したら、それをどうファシリテーションするのか?
……そんな不安が、今までの自分にはあったのだと思います。
私のファシリテーションは、全員を同じ色に染めるようなもので、「場を丸く収める」というコントロールをしていたのだと思います。
一方、カツヨ先生は、気になることはグループに返し、「どうする?」「どうしたい?」と、グループの意志を確認し、そのプロセスをしっかりと見守りながら一人一人の力を引き出し、グループ・ダイナミクスを使って結論を導き出していました。
時には「あ~、誰さんが大きなあくびをしてるね」とか「まだ、話をしていない人がいるね」とさらりと触れ、メンバーの気づきを促し、くすぶっているものは明らかに、滞っているものは流れるように、とてもオープンでした。
自分の枠の中で場をコントロールする限り、自分が想定する結果しか生み出せません。
それに対して、メンバーの多様性を受けとめ、ファシリテーションしていくと、自分の想像を超えたイノベーションが起きるのです。