福祉現場での導入例

介護スタッフ等のストレス軽減!

静岡県の社会福祉法人「信愛会」では、職員研修の2本柱のひとつ「コミュニケーション力向上研修」として2008年からTRUE COLORS(TC) プログラムを実施しています。現在、全職員640名のうち9割以上が受講。 法人内のTCファシリテーター、生田美穂子がご報告します。


社会福祉法人信愛会は、静岡県沼津市に本部を置き、県東部に保育・障がい・介護の計11施設を運営する創立40年を迎えた法人です。

私たち信愛会がTRUE COLORS(TC)プログラムに出会ったのは、2008年。
コミュニケーション力向上研修として招いた「アサーティブトレーニング」の木村久子講師から、TCプログラムを紹介されたのです。

対人関係ストレスによる離職者も

福祉の現場では、ご利用者・ご家族との関係、職員同士の関係がさまざまな悩みのタネになります。
良かれと思ってとった言動が受け入れられずに誤解されたり、リーダーとしてスタッフ育成に悩んで自信をなくしたり。
介護現場では2~3人のスタッフで勤務することが多く、苦手な相手と組む一日は相当なストレスを抱えることになります。

「これ以上、我慢するのはムリ。ここは合わない」と去っていく職員もありました。
TCプログラムはこの状況を改善するツールになるのでは……という当時の研修委員長のヒラメキによって、即、導入が決まったのです。

当時、委員の一人として裏方をつとめていた私にとって、ガラス越しに見たグループワークの様子は衝撃的で、今でも忘れられません。
4つのカラーに分かれたグループはまったく雰囲気が違っていて、とても同じ課題でワークをしているとは思えなかったし、何より、受講者がイキイキ楽しそうでした。
「これ何? 何が起こっているの?」
本当に不思議な光景でした。

役職者への「お披露目」TC講座

翌2009年には、TC「入門講座」を2回実施。
今後は法人内でTCの研修を定期的に行なっていかれるよう、職員がファシリテーター資格を取得することが決まり、まず黒川正樹、続いて私・生田が養成講座に参加し認定を受けました。

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2010年には、いわば役職者への「お披露目」として、法人の課長級以上を集めたTC入門講座が行なわれました。

当時まだ初心者マークだった黒川ファシリテーターにとっては、理事長を含めて「素の自分」になってもらう場をつくる、という高いハードルでしたが、見事に成功!
TCプログラムの効果と楽しさを、役職者や管理職の皆さんが実感する半日となりました。

以来、「コミュニケーション力向上研修I」として、TC入門講座を、「コミュニケーション力向上研修II」として、TC実践講座の中から「対人関係」「ストレスケア」を合わせたものを、信愛会研修体系に位置づけました。

常勤、非常勤、また職種を問わず事務職員も調理員も環境整備の労務職員も、法人職員すべてを対象として計画し実施しています。
「コミュニケーション力向上I」は年3回、「コミュニケーション力向上II」は年2回行われており、2015年7月現在で、Iは22回開催され約600人が受講(全職員約640名の94%)、IIは330人が受講しています。

職場にTCがあって良かったこと

個人的にTCというツールが職場にあって良かったと思うことを挙げてみます。

第1位 ストレス軽減

相手の行動が信じがたいものであった時なども、「カラー」で考えると、相手の行動も受け入れられ、ストレスを感じた自分にも納得がいきます。
前向きに捉えることができ、自分を責めたり相手に怒りを向けたりして無駄に悩む時間が減りました

第2位 課題解決

職場で問題が起きた時、「何が起きているのか、なぜそうなったのか」を分析しますが、他のカラーの意見を聴くと、自分の見えなかったこと気づけなかったことが素直に理解でき、問題の輪郭、奥行きが以前より捉えやすくなったと思います。

解決方法についても、どのカラーの意見が有効か、どのカラーに配慮した方が良いかなど判断しやすくなりました。
なにより、お互いのカラーを前提に意見を交換する時は、本当にラクで、楽しいです。
「ゴールドさん的にはどうなの?」「へえーっ!そんな風に行動するものなの?」「なるほどね」と驚きと発見の連続。気質の違いはとにかくびっくりで楽しい。

第3位 効果的なコミュニケーション

かつて私は、ゴールドさんに新しいプロジェクトの指示を出す場面で、伝え方を失敗したことがあります。ビジョンを熱く語り、考える材料となるであろう情報をこれでもかと手渡し、「あなたの経験を活かして自由にやってみて!」と伝えたのです。

しばらくして、あるブルーさんから「ゴールドさんがどうすればいいのかわからない、と言っていた」と聞き、ゴールドさんのところへ飛んでいきました。
「何で? 何で? どういう風にわからない?」
かえってきた答えは、「『自由に』って言われると困る」。
……考える自由が大事な私には衝撃的なひとことでした。

この一件を、ゴールドのボスに相談しました。
「ゴールドさんに、いわゆる自由にやっていい、と伝えるとしたらどんな方法がありますか?」
かえってきた答えはこうでした。

「目的とリスクや条件ですね。予算や期日、冒してはならないリスクを言った上で、極端な話、『目的のためにはどんな手段を使ってもよい』的な言い方をすれば、枠組みの中で自由にできます。でも、自由という言葉を聞いた途端、不自由になるので、言わない方がいいでしょうねぇ」

気質の違いは、想像を超えることが多くあります。
そこで本丸を攻める前に、相手と同じカラーを持つ「別の人」に参考意見をもらうことで、相手のカラーに合った伝え方を工夫することができます。

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ある日の職場で、TCプログラムで使ったパイチャートを手に会話が弾んでいました。

上司と部下の共通言語

私個人のTCとの出会いは、TCファシリテーターの資格を取得せよ、という業務命令に近いものでしたから、最初は素直になれませんでした。

でも、ファシリテーターになる過程で「自分が好きでない自分」に出会い、養成講座を修了するころには「私は私でいい」と思えるようになって、本当に心が軽くなりました。
ですから、TCによって勇気元気をもらえるスタッフがきっといる!そう思って講座を担当しています。

ちなみに講座Iではたいてい、ある「お宝」を披露しています。それは、役職者への「お披露目」TC講座でのグループワークの模造紙です。
この研修は信愛会にとっての歴史的講座。法人理事長も、本部の事務長も、介護施設の施設長、保育園園長も参加しています。さらに……特養の介護課長、看護課長、居宅介護支援事業所のケアマネ、地域包括支援センターの社会福祉士……総勢34名の役職者や管理職の皆さんが、カラーごとにグループを作り、自分たちの「楽しみ、長所」「嫌なこと、イライラすること」「モットー」などを色とりどりの模造紙にまとめたのです。

この模造紙によって上司の「素のままの姿」が講座で披露されるたび、職員の大きなどよめきや笑い声が起こり、なんとも言えない一体感が味わえます。
上司と部下の共通言語、コミュニケーションツールがうまれる瞬間です。